
今回はJ.PRESS&SON’S AOYAMAバイヤー黒野とKURO DENIMディレクター八橋さんとの対談をお送り致します。


【バイヤー黒野:以下、黒野】
この度KUROさんと”CENTER PLEATS DENIM TROUSERS”をご一緒に作らせて頂きました。
今回で21SSに続き、2シーズン目ですよね。ありがとうございます。では、簡単に自己紹介をお願い出来できますでしょうか?
【KURO DENIMディレクター八橋さん : 以下、八橋さん】
KURO DENIMディレクター兼デザイナーの八橋です。
KURO DENIMは2010年 PITTI UOMO の出店を皮切りにスタートしたユニセックスデニムブランドです。
海外に20アカウント、国内50~60アカウントを店舗としては展開しております。
【黒野】ということで、デニムのプロフェッショナルをお呼び致しました。
ところで、僕はそこまでヴィンテージのデニムが得意ではないのですが、八橋さんから多くのことを学ばせて頂いております。
本当にデニムが好きです。ブルー系のシャンブレーシャツが好きなのも毎度話をしていると思うのです・・・。
なんか古着でもこの色落ちやシルエットがいいなーとついつい買ってしまう。
買い物の中でも、一番感性を刺激されるアイテムなのではないかなと思っています。
ちょうど1週間前に八橋さんと広島県の福山や、岡山の児島へご一緒させて頂きましたよね。
今回の出張でどうしても、モノが生まれている空気を肌で感じたかったことが一番の理由で、大変お世話になりました。
旧織機のセルビッチデニムを織っているところを機屋さんに見せて頂いたり、実際にどのように加工がされているのかなども見せて頂き本当に勉強になりました。
【黒野】出張の時に聞いたんですが、もう100回位は、岡山に来ていると聞いたんですが、本当ですか?
【八橋さん】そうですね。100回以上かもしれません。主に現場の職人さんとコミュニケーションを取るために通っています。思っているものをカタチにする為には職人さんたちとお話しをしてコミュニケーションをとる事が一番大事だと思っています。
【黒野】なるほど。やはり八橋さんと工場さんの会話のやりとりから親密さを感じました。いいモノを作るってやはりコミニュケーションが大事だなとこの頃、つくづく思います。


【黒野】早速、今回のコラボアイテムについて少し触れていきたいと思います。八橋さん、いいのを作れましたよね?(笑)
【八橋さん】そうですね。本当にいいものが出来たと思います。
【黒野】今回ご紹介するのは、デニムスラックスです。ただし、普通のデニムスラックスではありません。まず、私から作ろうと思った理由から少しご紹介したいと思います。
"シャツなんかをタックインしてもカッコいいデニム”がずっと欲しかったんですね。しかも、デニムスラックスです。
勿論、イタリアブランドによくあるドレスアプローチのデニムスラックスじゃなく、あくまでもアメリカンカジュアルからのアプローチ。でも、そんなデニムスラックスなんて無かった。
そもそも歴史的にも無いかもですが・・・。
それに紺ブレにシャツをタックインして、いい色落ちをした501の感じって"いかにも"も好きなんだけど、冷静に見るとやっぱダサい。まず、股上浅すぎるし、細すぎる。(笑)
僕の足の長さと太さでは100%似合わないけど…嫌いではないから今まではよくやってましたが。(笑)
【黒野】八橋さんにもそのような話をして今回企画をお願いしたのですが、意味分かりました?(笑)
【八橋さん】黒野さんとのお付き合いも長くなってきているので意味は分かりました。(笑)
ただ、通常デニムを縫う工場とスラックスを縫う工場は全く違います。普段スラックスを縫っている工場ではデニムを縫っていません。
そういった意味ではデニムの工場でマーベルトを付けられる所がまずありません。ごく限られた工場でお願いしてなんとかやってもらったといった感じです。
【黒野】ちなみにKUROさんでスラックスを作ったとしても、このような洗いを前提とした企画ではなかったですか?(笑)
【八橋さん】殆どないですね。(笑)
過去にやったことはあったけど、それはチノっぽいスラックス風なやつ。マーベルト付ではありましたが、5ポケットの仕様でした。
だから今回の本格的なスラックスの仕様とは根本が違います。




【黒野】そう今回のポイントは、スラックスなんだけど、5ポケットの一般的なデニムの雰囲気を残したいというのがポイントになります。その要素を作るうえでは、素材から触れていきましょう。少し素材についてご説明頂けますか?
【八橋さん】場所は繊維の街、メゾンブランドも御用達の岡山県井原市にある工場です。シャトル織機という旧織機で織られたセルビッチデニムを使っております。縦糸を減らして甘織にし、洗った後にいい表情がでる素材です。
【黒野】ヴィンテージで例えるとどの様な感じなのでしょうか。
【八橋さん】ヴィンテージで例えるのはなかなか難しいかも。ありそうでない生地の風合いで甘織りのバランスのよい生地です。
【黒野】シャトル織機で織られるセルビッチデニムっていわゆる赤耳のデニムだと思うのですが、普通に織られるデニムとどう違うかを教えて頂けますか?
【八橋さん】緯糸がエアーで飛ばすのではなく、ぬるっと的な。旧織機なのでゆっくりと空気を入れながら織り上げてヴィンテージライクな仕上がりにしていきます。前述にでたエアーっていうのは言わばデジタルでスピード感があったり、張りがあったりと効率のよい仕上がりになる感じです。今回はそうではなく、アナログ織機でゆっくりと風合いを大事にという感じですかね。この感じを"ぬるっと"と表現しています。(笑)
【黒野】なるほど!よくわかりました。(笑)
【黒野】次に加工について少し聞きたいのですが、それぞれ、どのような加工を入れているのでしょうか?
【八橋さん】ベースは大きな釜で沢山の製品を入れて洗う所謂ストーンウォッシュです。クリースのあたりは1本、1本職人さんが手で加工を施してある手作業です。これが中々難しくて手間のかかる作業なので手に取ってみて頂けるとよくお分かり頂けると思います。
【黒野】裾のあたりとか色落ちもいいですね。このアタリの出し方とかって本当にセンスだと思います。ちなみにディテールについても少し掘り下げてみたいと思います。 まずは、スラックスのディテールを取り入れましたが、簡単に紹介します。
・サイドポケットはJ.PRESSのスラックスの仕様を採用し、少しカーブがかかり手やモノを入れやすくしシルエットもよく見せてくれます。
・マーベルト仕様は通常のデニム工場できない分、特別に探すのが大変でした。おかげで綺麗に仕上がってまね。サスペンダーボタンも付いています。
・フロントのタックボタンとマーベルトは作れる工場が違うので箇所によって工場を変えるなど、時間と手間がかかっています。
・ベルトループはバータックが無く、挟み込んであるのですっきりとした見た目になっています。スラックスの仕様ですね。
・クリースは手作業で1本1本入れてます。職人さんの手仕事です。
【黒野】前立てのセルヴィッチ仕様(何年代のヴィンテージからのディテール)で難しかった点は?
【八橋さん】後ろベルトの紙パッチ仕様は50~60年代のユーロミリタリーから着想を得ています。ヴィンテージからのディテールは雰囲気が出ますよね。
【黒野】サイドシームの裏、セルヴィッチも珍しいですよね?
【八橋さん】特にフロント部分の作りに苦労しました。ファーストサンプルは少しふにゃっとした感じに仕上がってしまい座りが悪かったので何回か作り直してモノにしていった感じです。
【黒野】移染もいいっすねー。

【黒野】シルエットにおいては、スラックスなので股上は、通常のボトムに比べ、深めに設定しています。太さも程よく太いストレートシルエットにしております。太すぎても違うし、細すぎてもなんか違う。“古臭くなく、時代感をいかに感じさせないか?”という特にこの太さにもこだわりました。
タックインをしたくなるウエスト設計にしていますが、勿論このような時期になるとセーターやスウエットなどがトップスにくると思いますので、腰で履いてもいいと思います。
そもそも、グレーのきっちり感のあるセンタープリーツが入ったスラックスに、フードスウエットやバーシティみたいなカジュアルなものを合わせるのがなんかJ.PRESSみたいなアメトラらしさが全開に出てて、好きなシルエットで・・・デニムだから少し、カジュアルダウンにはなるんですが、今回もそんなマインドを裏で残してもらいながら、スタイリングをしてもらえると嬉しいなと思いながら作りました。
どうですか?八橋さん
【八橋さん】すごくいいと思います。ゆるく履くのもありですよね。
【黒野】以上から凄くこだわりが詰まっているということが分かって頂けると思います。当初お題を出したアメリカンカジュアルからのアプローチのデニムスラックスが具現化されていますね。
いやー、自分で依頼をしておいてなんなんですが・・・凄いマニアックですよね。
こういうパンツってまず、トラディショナルなブランドでない限り必要がないし、作れないと思うんですよね。間違いなくKUROさんみたいなデニムブランドがいなければ、トラディショナルなマインドでここまでの完成度のモノを提案出来なかったと思います。
でも、すぐに理解して頂けるかは分からないですが、作り手としてはじわじわその必要性や世の中にない視点に気付いてもらえると嬉しいですかね。




